RaaSが切り拓くブランド公式リユースの未来—サーキュラーエコノミー実現への挑戦について聞いてみた

2025年1月に、「CEコマース業界のカオスマップを作ってみた~メルカリ・リコマース総合研究所×リユース経済新聞共同企画~」の記事を書きました。その中で、二次流通仲介やリユースなど、中古品に新たな価値を見出し市場に供給するサービスが中心となる「物品の利用期限を延ばす」というカテゴリーについて触れ、特に「自社メーカーリユース」が注目されているという話をしました。
海外では、すでに「Patagonia(パタゴニア)」や「BALENCIAGA(バレンシアガ)」など、多くの有名ブランドが自社製品の収集を行い、リペア・メンテナンスを行った上で認定リユース品として販売・レンタルするサービスを展開し、新たな消費のスタンダードとして定着しています。さらに、リコマースを展開する海外ブランドの多くは、Resale-as-a-Service(RaaS)を提供するプラットフォーム企業と提携し、サービスを構築・運営しています。

今回は、日本発のRaaSプラットフォーム企業である「Free Standard株式会社」の取締役 野村 晃裕さんにお話を伺いました。
同社は、リコマースサービスの企画から収集・販売チャネルの構築、サプライチェーンの設計、オペレーションの運営代行まで、ブランドのニーズに合わせて一気通貫で支援する「Retailor(リテーラー)」を提供しています。
インタビューでは、RaaSがブランドのリコマース導入をどのように支えるのか、そのビジネスモデルの可能性についてお聞きしました。また、サーキュラーエコノミー実現に向けたリユース市場の展望についても、メルカリ・リコマース総研の所長・與田が話を伺いました。

フリースタンダードが提供する「Retailor(リテーラー)」の概念図

「Free Standard株式会社」取締役の野村 晃裕さん
2006年ワイキューブ入社。組織人事コンサルティング事業、ブランディングコンサルティング事業などの新規事業立ち上げを行った後、2011年にリンクアンドモチベーションに入社。中小ベンチャー向け組織人事コンサルティング事業、ベンチャーインキュベーション事業、組織改善クラウド「モチベーションクラウド」事業に従事し、2020年Free Standard設立に参画。グロービス経営大学院にてMBA取得。

大量生産・大量廃棄からの脱却ーブランドの持続可能な成長を支えるRaaS事業を始めたきっかけ

藤井:RaaS事業を始めたきっかけについてお聞かせいただけますか。どのような課題や市場の変化を踏まえて、この事業をスタートされたのでしょうか。

野村:Free Standard株式会社は2020年8月に設立しました。張本と私の二人で立ち上げたのですが、当時はちょうど新型コロナウイルスの真っ只中でした。2020年2月末に緊急事態宣言が発令され、その後解除されたものの、コロナの影響がいつまで続くのか全く予測がつかない状況でした。
このようなタイミングで起業したため、まず最初に「どの市場で、どの課題を解決するのか」という点を徹底的に議論しました。張本は前職でファッションブランドを顧客として担当しており、コロナ禍において彼らが直面していた課題の深刻さを目の当たりにしていました。特に、店舗に人が来なくなったことで、大量の在庫を抱え、ブランドビジネス全体が大きなダメージを受けていました。日本のEC化率は約8%程度で、残りの92%はリアル店舗での販売が主流でした。しかし、そのリアル店舗が機能しなくなったことで、大手企業であっても経営が立ち行かなくなるリスクが生じたのです。

そこで私たちは、「この問題の本質は何か?」と考えました。コロナ禍という外的要因はもちろん大きな影響を与えましたが、根本的な原因は「作りすぎ」ではないかと気づいたのです。従来、大量に生産し、売れ残ったものを最終的には廃棄するというサイクルが続いていました。このモデルは産業革命以来100年以上変わっていません。しかし、これを変えるためには、単に販売方法を工夫するだけでは不十分で、バリューチェーン全体を見直す必要があると考えました。

もし、これまで生産されたものや捨てられていたものが新たな収益につながる仕組みが作れれば、単に「作る量を増やさなければ売上が上がらない」という従来の考え方を変えられるのではないか。リユースを実装し、それを事業の一部として成長させることができれば、企業は売上を伸ばしながらも不要な大量生産を抑えることができ、資本主義の枠組みの中でも持続可能な経営が可能になるのではと考えました。

こうした課題意識をもとに、私たちはRaaSというビジネスモデルに取り組むことを決めました。

與田:LTV(Life Time Value)を延ばすことを、ビジネスの仕組みに組み込むという考え方ですね。

野村:その通りです。これまでLTVという概念は主に顧客との関係性に対して使われていましたが、私たちはこれを「モノ」にも適用できるのではないかと考えました。

與田:事業を始めた際にも、モノのLTVを延ばすことを念頭に置きながら、ビジョンやミッションを定めたのでしょうか。

野村:ほぼ同時に近い感覚です。このスキームが世の中にどのような価値を持つのかを考えていく中で、結果としてモノのLTVを延ばすことに行き着きました。

リユース市場は今どう変わっているのかー企業と消費者のリアルな反応

與田:2020年から取り組まれてきたRaaSモデルですが、現在の市場環境や利用者の反応について、どのように感じられていますか。

野村: 企業側と消費者側では、それぞれ異なる手応えを感じています。特に企業側は、モノのLTVを延ばすという話に関して、これまで「作って売る」までが企業の役割であり、一度販売した商品は自社の資産ではなくなるという認識が一般的でした。しかし、最近ではリユースによって再度価値を生むという観点で、過去に販売した商品も自社の資産として捉えていいんだと考え始めています。
また、メルカリの広がりが企業の認識にも影響を与えています。メルカリが登場する前は、「やはり新品が主流」という考えが根強かったと思いますが、今では消費者がリユースを自然に受け入れていることが明確になっています。ブランド毀損もないと理解されており、企業の中でも受け入れやすいものになっています。

與田:現在、インフレの影響で物価が上昇し、一つのモノに対するお客さまの支払い額が以前と比べて高くなっています。そうした中で、ちょっと割安感があり、手頃だけど品質の良い商品への関心が高まっています。企業側もそれを理解し、リユース市場に対する反応が徐々に変わってきているということですね。

消費者側の視点はいかがでしょうか。

野村:まだまだ認知度は低いと思っています。ただ、ブランド公式リユース品を購入された方々にアンケートを取ると、回答率が高く、満足度も高いという結果が出ています。ブランド公式だからこその品質がありながら、新品より価格がそこまで高くないため、安心感とクオリティの両方を兼ね備えていると感じています。

與田:実際に、公式で販売されているからこそ、保証やメンテナンスなどが充実している点が、消費者からの良い反応につながっているのでしょうか。

野村:全品、ブランドのガイドラインに沿ったメンテナンスを施しています。二次流通の商品として、こうした手入れがされたものを買える機会は意外と少ないんです。ちょっとしたひと手間やふた手間ではありますが、それにもコストがかかります。ただ、その分、消費者の満足度にもつながっていると感じています。

與田:購入後に満足されて、もう一度購入されるケースも多いのでしょうか。

野村:リピートはとても多いです。ただ、まだまだ認知度はこれからですね。

與田: 実際に手に取ってもらうことで商品の良さが伝わるということですよね。やはり、最初の一歩が大切ですね。

藤井:ブランド自体を知らなかった方々が、リユース品を手にすることで初めてそのブランドを知るケースも多いのでしょうか。

野村:ブランド公式リユース品をきっかけに、そのブランドを初めて知る消費者は比較的多いです。ただ、購入者の傾向を見ると、もともとそのブランドに憧れていたものの、新品は高くて手が出せなかった方が、リユース品を購入することでブランドの良さを実感するケースが多いですね。
また、一度離れてしまった方が、リユース品を通じてブランドに戻ってくる動きも見られます。企業の視点で言えば、広告は基本的に新規顧客の獲得が目的で、リピートを促進する手段は限られています。その中で、リユースが新たな接点となるのは、とても興味深いポイントだと思います。

藤井:リユース市場が新品の売上を阻害するのでは、という懸念はありますか。 それとも、二次流通があることで、裾野が広がるという受け止めでしょうか。

野村:リユース品の購入が当たり前になってきた今、企業もその流れに乗るべきだという意識が強まっています。意外と、新品購入とのカニバリゼーションは気にされなくなってきています。むしろ、実際にはブランドのファンを増やし、裾野を広げる効果があると認識されるようになっています。

ブランド公式リユースの成功事例——多様なカテゴリーで広がる取り組みとオペレーションの工夫

與田:実際にユースケースとして、ブランドと一緒に取り組んだ成功事例についてお聞かせいただけますか。

野村: 例えば、「MARGARET HOWELL」さん、「STAUB」さん、「ヤマハゴルフ」さんなど、さまざまなジャンルのブランドのサポートを行っています。それぞれのブランドごとに特徴があり、良さがあります。

與田: 服だけでなく、鍋やゴルフクラブなど幅広いカテゴリーを取り扱われていますよね。その対応範囲の広さに驚きましたが、オペレーションはどのように構築されているのでしょうか。

野村: どの領域まで展開するかは、常に模索しながら進めています。現在は、特に重点的に取り組んでいるカテゴリーが3つほどありますが、その中でもマーケット規模が大きく、安定した成長が見込める「ファッション」に最も注力しています。ただ、他の領域についても、バランスを見ながら今後広げていく予定です。

與田:回収して消費者の手に渡るまでのプロセスには、査定やメンテナンスの工程などが含まれると思います。こうしたプロセスは、自社で独自に構築されているのでしょうか。

野村:サプライチェーンの設計・管理は自社で行っています。ただし、多岐にわたる実作業まですべて内製化するのは難しいので、多くのパートナー様の力を借りながら進めています。具体的には倉庫やクリーニング、配送など、ヒトの部分も含めてその領域に特化したアセットを持つパートナー様との連携ができることも私たちの強みです。

與田:提供責任の一端を担うという意味でも、プロフェッショナルな人材が多く、独自のポジションを確立しているイメージです。

野村:手間のかかる部分こそ丁寧に向き合うことが大切ですし、パートナーに対してもリスペクトを持ち、自分たちで一度やってみることを大事にしています。例えば、オフィスでスタッフ全員で査定をしてみたり、プロセスを変更した際に実際に試してみるといった取り組みを行っています。こうした実践を通じて、外部に依頼する際の単価感も含め、適切な判断ができるようになります。

RaaS事業のスケール化の鍵——オペレーション最適化と価格設定の課題

與田:今後、こうした事例が広がることで、サーキュラーエコノミーの推進にもつながっていくと考えています。ただ、スケールさせる上では、事業運営におけるさまざまなチャレンジや課題もあるかと思います。特に、認知度の向上とオペレーションの最適化では、どちらがより大きな課題と感じていますか。

野村:どちらも重要ですが、最も大変なのはオペレーションです。オペレーションを磨くことでコストは下がりますが、プロセスが非常に多岐にわたるため、最適化が難しい部分もあります。
具体的には、査定、メンテナンス、倉庫管理、EC販売など、RaaSとしてのクオリティを維持しながら、一点ものの特性を考慮しつつ効率化する必要があります。
また、商品数が急増した際のキャパシティ管理も大きな課題です。例えば、プロジェクトが始まるタイミングや季節の変わり目には、急激に商品が増えることがあります。こうした変動に対応しながら、倉庫の規模を適切に管理し、必要に応じて拡張できる体制を整えることが求められます。このバランスを取るのが特に難しい点ですね。

與田:リユース品は、新品よりも価格を抑えなければならない一方で、オペレーションコストがかかるため、価格設定のバランスが難しそうですね。特に、商品自体の価値が高いものがターゲットになったり、品質が求められたりする点もありますね。

野村:現在の市場では、新品価格の約4〜5割で販売されることが多いですが、それでもオペレーションコストをすべて吸収できるわけではありません。特に、ファストファッションの価格帯になると、コスト吸収が難しくなり、課題が多いのが現状です。
ただ、ユニクロさんや無印良品さんのように、自社でリユース事業を展開している企業もあります。こうした取り組みが今後さらに広がる可能性もありますね。1つ1つの工程をしっかり進めながら、必要に応じて簡素化し、全体のプロセスを効率化することも考えられます。

リユース市場の未来——標準化への道と政府支援の可能性

與田:今後の市場の見通しについてお聞かせください。事業が広く浸透したと感じられるのは、どの程度の認知度に達したときでしょうか。

野村: 指標として特に具体的な数値目標を設定しているわけではありません。ただ、企業においては、ブランドリコマースの価値が伝わり経営上の重要度が高まることを目指しているので、「サステナブル活動」の側面と「事業成長」の両面から取り組む企業が増え、私たちがサポートしていない企業からも次々と事例が発信されているような状態を作りたいですね。

與田:まだRaaSやリユース事業を自社で展開していないブランドも多く、これから標準化が進む段階なのではないかと感じています。オンラインストアも、かつては導入が進んでいませんでしたが、例えばオンライン販売の比率が5%程度から始まり、10%を超えてくると「オンラインストアは当然のもの」という認識が広まりました。RaaSも、ブランドの導入率が10%を超えるあたりで大きな変化が起こるのではないでしょうか。

野村:ECが広まった流れと全く同じだと思います。ファッション業界でもECの導入当初は「ネットで服が売れるわけがない」という意見が多かったですよね。サイズが分からないなどの課題がありましたが、それでも徐々に大手ブランドが参入し、今ではほぼ全てのブランドがECを導入しています。
リユース事業も同様に、5年、10年というスパンで新しい消費のスタンダードになるサービスが生まれています。
今後、ほぼ全てのブランドが公式リユースを展開する未来が確実に訪れるでしょう。それをどれだけ早く実現できるかだと思います。

與田:政府のデータを見ても、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、循環資源の活用や環境負荷の低減が重要課題として認識されています。こうした背景の中で、政府の支援があれば、よりスムーズに進められるのではないかと思うのですが、具体的にはどのような支援が有効だと考えますか。

野村:欧米でリユースが強く進んだ要因の一つは、政府の介入だと思います。例えば、欧州ではリユースを促進するために規制があり、売れ残った衣類の廃棄に罰金が科される仕組みなどがあります。アメリカでも税制優遇の議論が進んでいますね。
日本では罰金の導入は日本の文化に合わないかもしれませんが、税制優遇なら実現可能性が高いのではないかと考えています。現在、DXに対しては補助金や減税措置があります。また消費者向けにはエコポイント制度などがあります。

與田:環境省の「デコ活」では、消費者へのインセンティブ設計の在り方が議論されていますね。また、リユースが経済的なメリットにつながることで、お客さまにとってもより身近な選択肢となり、普及がさらに加速しそうですね。

野村:また、税制優遇や補助金も大事ですが、やはりお客さまからの支持を得ることは重要な視点です。一度使ってみると、その良さが分かるので、まずは多くの人に体験してもらうことが大切です。まずは消費者に広く知ってもらい、実際に利用してもらうことが鍵になりますね。

與田:特にインフレが進む中で、コストを抑えつつ質の高い商品を求める動きが強まっていると思うので、合理的な形でリユースが受け入れられる期待は高いですよね。

野村:そう思います。豊かさというのは、経済的な側面ではお金を得ることですが、精神的な側面では選択肢が増えることが大きいと思います。新品だけでなく、リユースという選択肢が増えることで、消費者の自由度も高まると思います。
売り買いの場をメルカリが作ったことで、消費の選択肢は広がりました。家や車などの高価格帯の商品から低価格帯へのリユースの波が広がっていますが、これは人間の本質として、より自由な選択肢を求める流れなのかもしれません。
「ブランド公式」といった新しいリユースの選択肢があることは、まだ十分に知られていない部分もありますが、知っていただければ選択肢が増えることは歓迎されると思っています。

おわりに

サーキュラーエコノミーの実現は国家戦略として位置づけられ、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄という経済モデルから、商品寿命を延ばし、適切な量を生産しながら繰り返し利用するサーキュラーエコノミーへの転換が求められています。本記事を通じて、ブランドの公式リユースを支えるRaaSが、リユース市場の拡大に大きく貢献していることがわかりました。

特に、収集・メンテナンス・個品単位の在庫管理など、二次流通ならではのオペレーションの複雑さは、企業にとって大きな課題です。こうした中、メルカリでも「買取リクエスト」を開始し、事業者と連携することでリユース品の収集を支援する取り組みを進めています。

野村さんのお話にもあったように、リユース市場がさらに広がることで、消費者にとって新たな選択肢が生まれる未来が期待されます。リコマース総研は引き続き市場の動向を探り、その発展を後押ししていきます。

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