
“見えない裏側”を可視化する 〜Re-Creationが挑むサステナビリティ認証の新基準〜
今回は、ファッション業界におけるサステナビリティ認証に取り組む一般社団法人Re-Creationの山下さん、大表さんにお話を伺いました。設立の背景や認証の仕組み、サプライチェーン可視化の課題、生活者との接点作り、そして今後の展望まで、幅広くお聞きしました。
伊藤忠ファッションシステム株式会社 Re-Creation グループ グループ長 兼 一般社団法人Re-Creation 専務理事 山下 徹也 氏
株式会社ワールドで全社戦略および新業態開発を担当。2017年より伊藤忠ファッションシステム株式会社にてマーケティング部門責任者を経て、ifs未来研究所所長代行に就任。2024年、一般社団法人Re-Creationを設立。ファッション産業の環境・人権・透明性への取り組みを第三者評価で可視化する認証制度「Re-Creation」を立ち上げ、専務理事として制度設計と普及を牽引している。
伊藤忠ファッションシステム株式会社 事業推進グループ PR担当 大表 桂子 氏
伊藤忠ファッションシステム株式会社にて広報・コミュニティ運営を担当。企業向けサステナビリティコミュニティ「iSFL(ifs Sustainable Futures Lab)」の企画・運営や、「Re-Creation」の広報を担う。生活者インサイトや未来予測の視点を生かし、企業の取り組みを社会に伝わる言葉へ翻訳するコミュニケーション設計に取り組んでいる。
なぜ今「アパレル認証」なのか 〜 ファッション業界の構造課題とRe-Creation設立の背景
– Re-Creationを立ち上げた背景を教えてください。
山下さん:1990年代後半からファッション業界に携わり、グローバルサプライチェーンの開拓に関わってきました。日本のファッション市場は1990年代前半から縮小する中で、価格は半分になり供給量は2倍になっています。家計の衣服への支出もおよそ6割に減りました。量は増えたけれど質はどうなのか、という疑問がずっとありました。
2010年代に入ると海外展示会でサステナビリティ軸のブランドが急増し、価値観の再定義が始まりました。一方で、ラナ・プラザの崩落事故や某有名ラグジュアリーブランドの廃棄問題で業界全体が批判され、真摯に取り組むブランドの努力が消費者に伝わらない状態が強まった。取り組みの中身を言語化し、生活者に届ける仕組みとして認証を構想したのが出発点です。約4年前にプロジェクトを開始し、2024年度に一般社団法人として設立しました。
サステナビリティ認証の「誤解」を解く 〜 製品認証という考え方とRe-Creationの独自性
– 認証を取得すれば「サステナブルなブランド」と受け取ってよいのでしょうか。
山下さん:Re-Creationは製品単位で認証し、その製品の確かさを証明しています。ファッション業界は自社で全工程を持つブランドがほとんどなく、多様な協力者がいる前提で「どこまでをどう見せるか」を整えることがポイントです。
既存のオーガニック認証は労働環境や土壌など生産者への配慮が本質ですが、消費者には「肌に優しい」というイメージしか届いていません。Re-Creationは「何にこだわっているか」を明確にし、その努力を可視化して届けることを出発点にしています。
–認証取得にかかるプロセスやコストはいかがですか。
山下さん:書類審査をすべてオンラインで行い、不備があればインタビューで補います。提出から1週間〜10日程度で認証が下ります。既存認証が高価格になりやすい要因は工場への現地監査コストですが、Re-Creationは書類ベースの設計で極力低く抑えています。

アパレルのサプライチェーン可視化はどこまで可能か 〜 トレーサビリティの現実と限界
– サプライチェーンの可視化は実際にはどのような課題がありますか。
山下さん:合成繊維の原材料がどこの石油由来かを特定しても、労力に対してリターンは小さい。農業・牧畜の部分では個体差が大きく、完璧にすべてを追うことは現実的ではありません。
だからこそ、「ここまでは見えている。ここは見えていない」を堂々と示してほしいと伝えています。消費者にとって重要なのは完璧なトレーサビリティではなく、見える範囲と限界がわかることです。「見えないことが見えている」状態の方が、ブランドと顧客の信頼関係を築きやすいと考えています。
業界全体を見ると、ファッション業界はインダストリー4.0の観点では2.0レベル、つまりかつてのアパレル大量生産の基盤となった電力による機械化とベルトコンベアーシステムのような、いまだに管理が手作業のままでトレーサビリティの可視化が遅れています。一方で手作りの温もりという価値もある。そこを残しながら供給量を適正化し、長く着るライフスタイルへの転換が必要です。
サステナブルファッションは消費者に届くのか 〜 「選び方の視点」を変えるアプローチ
– 大表さんに伺います。認証の項目は一般の生活者の方々には馴染みが薄いですが、どのように届けていますか。
大表さん:生活者は商品が届くところからしか服の起点が見えません。「雇用倫理」や「人体への安全性」などピンとこない項目も多いのが実情です。一方で、ファッションロスやロングライフなど使う側・手放す側も含めた評価軸を入れることで、生活者自身ができる取り組みに気づけるようにしています。
「正しいから認証がいい」ではなく、「選び方の視点を変えてみる」というアプローチです。10着買う人の1着でもいいので、「この服ってどうやって作られているんだろう」と考えるきっかけを提供したい。YouTubeには認証項目の解説動画を3本( 雇用倫理 / ファションロス / グリーンハウスガス)制作し、高校生でも理解できる内容にしています。
今年3月にニュウマン高輪で開催したイベント「Re-Creation PLAY PARK」では、Re-Creation認証アイテムの販売に加え、ブランドのリユース商品を販売したほか、来場者が自分の選び方を可視化する「クローゼットタイプ診断」を実施しました。
- ストーリーコレクター 〜 背景やストーリーが好きな方
- クラフトラバー 〜 素材や作りにこだわる方
- ファッションエクスプローラー 〜 いろいろなスタイルを楽しみたい方
- ロングライフキーパー 〜 長持ちする服を大切にしたい方

ブランドスタッフがタイプに合わせた会話を行い、中には1時間じっくり話した上でアイテムを購入される方もいました。価格の前に「どんな配慮で作られているか」が少し見えることで、選択の軸が増える。それが私たちが大切にしているテーマです。

行政や国際連携とサステナビリティ認証の未来
– 今後の展望について教えてください。
山下さん:私たちの取り組みは環境省の「デコ活」推進事業にも採択されています。また、Re-Creationの活動を耳にした政府関係者や大学からの招聘を受け、Re-Creationが生まれた背景や今後の展望について、中国やヘルシンキ、パリなど海外でも講演の機会をいただいています。さらに今後は国際認証への展開も視野に入れております。
ブロックチェーン技術の発展により認証自体が将来的には不要になる可能性がある一方で、”基準”は科学的エビデンスをもとに更新され続けるものとして残ると考えています。そして、究極的にはRe-Creationがなくても目的が達成できる世界であればよいと願っています。
大表さん:いい選び方が広がっていくことに一貫してこだわりたい。完璧な選択ではなく、「ちょっとだけいい選択」が1人、2人、100人と広がっていく。Re-Creationのコンセプト「その一着で、世界をあたらしく。」は、自分の価値観に自信を持って選べる世界を作ることだと思っています。
(執筆・編集:上村一斗)
