サーキュラーエコノミーとは何か〜日本の現状と課題、そして未来〜

「サーキュラーエコノミー総研 by mercari」の主要テーマであるサーキュラーエコノミー研究の第一人者、国立環境研究所の田崎智宏先生をゲストにお迎えしました。基本的な概念の解説から、世界や日本における現状、今後さらに推進していくために企業やプラットフォームが果たすべき役割まで、幅広く深掘りしています。サーキュラーエコノミーを学ぶための入門記事として、ぜひご活用ください。

 

国立研究開発法人国立環境研究所 資源循環社会システム研究室 室長 博士 田崎 智宏

国立環境研究所・資源循環社会システム研究室室長。博士(学術)。システム工学と政策研究の2つの専門性を活かして、リサイクルおよびサーキュラーエコノミーの分野ならびにサステナビリティ分野の研究に従事してきた。中央環境審議会家電リサイクル制度評価検討小委員会委員、循環基本計画指標検討ワーキンググループ委員などを歴任。2010~11年にはスウェーデン・ルンド大学で拡大生産者責任の研究、2022年4月~2023年7月まで世界資源研究所にて社会システム・チェンジの業務に従事。現在は、将来世代のための研究プロジェクトのリーダーを務めている。

 

 

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サーキュラーエコノミーの課題 ― 廃棄と生産の分断をどう埋めるか

–田崎先生のご専門やこれまでの活動について、ご紹介いただけますでしょうか

私が国立研究所に入って、この分野の研究を始めたのは、2001年頃のことです。当時、日本では家電リサイクル法や容器包装リサイクル法など、さまざまなリサイクル関連法が次々に制定・施行されていました。私の仕事は、それらの法律がどれだけうまく機能しているかを評価し、改良していくことでした。そのためにも、専門用語で「マテリアルフロー分析」という、モノの流れを追いかける研究をしていました。

こうした研究を進める中で、私はある種の「分断」を感じるようになりました。もう一つは、廃棄物の問題が、上流である製品を作る側の生産者にうまくフィードバックされないこと。つまり、廃棄段階と生産段階がバラバラになってしまっているんです。この分断を何とかしたいという問題意識が、私の中にずっとありました。

これは、現代のサーキュラーエコノミーにおいても、私たちが乗り越えなければならない大きな課題です。以前は自分を「廃棄物・リサイクルの研究者」だと思っていましたが、最近は「サーキュラーエコノミーの専門家」と名乗ることが増えてきました。それだけ、この分野の重要性が増していると感じています。

 

世界で主流の「3つのLoop」:狭める・長く使う・循環させる

–先生の著書でサーキュラーエコノミーには100以上の定義があるとのことでしたが、そもそも、どのようなものだと考えればいいのでしょうか

最近よく耳にするようになった「サーキュラーエコノミー」という言葉には、実は100以上の定義があると言われています。これは、廃棄物問題に取り組む視点と、新しいビジネスチャンスとして捉える視点の間などに大きなギャップがあるためで、それによって多様な解釈がされています。2017年の論文で発表された100以上という指摘は、2023年に出された新しい論文では221にまで増えました。この6年間で「イノベーションを起こす」「社会や経済を変えることを可能にさせる物事(イネーブラー)が大切」といった新たな視点が加わっています。

しかし、その中でもEUが2020年に法律で定めた定義は非常に明確で、私はこの定義が最も本質を捉えていると考えています。それは単に「廃棄物をなくすこと」だけではありません。「製品や資源の価値をできる限り長く保ち、効率的に利用すること」を重視し、それによって最終的に「環境への影響を減らし、廃棄物を最小限にする」ことを目指す、経済と環境のバランスを重視するシステムです。

日本では「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」という言葉が有名ですが、海外では3つのLoopの概念が主流になりつつあります。

1.ナローイング・ザ・ループ(Narrowing the loop): 投入される資源の量を減らすこと。製品の軽量化や高効率化などが含まれます。「狭める」という意味で、製品の軽量化や高効率化によって、使用する資源の量を減らすことです。投入される資源量が減ることで、資源採掘や廃棄物処理にかかる環境負荷を低減できます。

2.スローイング・ザ・ループ(Slowing the loop): 製品を長く使うこと。製品の耐久性を高めたり、修理を行ったりして製品の寿命を延ばします。「ゆっくりする」という意味で、ものを長く使うことを指します。海外では、耐久性の高い製品にランキングをつけ、販売時に表示するといった取り組みも出てきています。

3.クロージング・ザ・ループ(Closing the loop): 循環の輪を閉じること。リサイクルやリユースを通じて、廃棄物を再び資源として活用します。これは、サーキュラーエコノミーの中心となる最も重要な概念です。素材の価値を維持してリサイクルする「水平リサイクル」や、部品を再利用して新製品に組み込む「リファービッシュ」「リマニファクチャリング」なども含まれます。

サーキュラーエコノミーは単なるリサイクル活動を超え、社会全体でモノの価値を最大限に活用し、資源の無駄をなくすという、より広い視野を持つ概念です。

EU法におけるサーキュラーエコノミーの定義

日本の強みと課題:真面目さと経済的インセンティブの不足

–日本より海外の方がサーキュラーエコノミーは進んでいる印象があります 。世界的な動きと比べて、日本の特徴や課題は何でしょうか

現在、世界はサーキュラーエコノミーを始めとする、持続可能な社会への大きな転換をしなければならない状況を迎えています。国連環境計画(UNEP)は、地球環境が「トリプルクライシス」と呼ばれる3つの深刻な環境問題をかかえていると指摘しています。すなわち、気候変動、生物多様性の損失、そして途上国を中心とする深刻な環境汚染です。

これらの問題は複雑に絡み合っており、従来の単一の解決策では対応が困難です。サーキュラーエコノミーが変えようとしている世界の資源の利用や生産活動は、実は、これらの3つの環境危機に深刻な影響を与えています。例えば、土地利用に関しては、生態系への影響が90%にも達すると言われています。これは、これまでの経済システムを根本から見直す必要があることを意味しています。たとえると「パソコンのOSを入れ替えるくらい」の社会の抜本的な変化が必要ということです。サーキュラーエコノミーは、まさにこの大きな変化を担う存在として期待がされているのです。

サーキュラーエコノミーに関する日本の大きな特徴は何かというと、私は「真面目さ」を挙げたいです。私たちは、法規制やルールをまもり、自主的な取り組みに取り組むという「真面目」な国民性を持っています。一方で、経済的なメリットなどをそっちのけで「頑張りすぎてしまう」という側面もあり、それが限界に近づいているとも感じています。ビジネスとして継続するためにも、今後は、経済的なインセンティブが与えられるような公共政策への転換が課題です。

他方、この日本の真面目さは、大きな強みにもなりえます。最近では、企業の環境に関する情報開示が重要になっています。環境に良い取り組みをアピールしなければ投資が集まらない時代になり、気候変動分野のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)や自然・生態系分野のTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)といった国際的な情報開示の枠組みが日本でも進んでいます。サーキュラーエコノミーの分野でも、日本企業や環境省が参加する国際的な情報開示プロトコル「GCP(Global Circular Protocol)」の策定の取り組みが進められています。サーキュラーエコノミーの取り組みをきちんとアピールすることで、投資家からの評価を高め、より大きな投資を呼び込むことができる時代になっていくでしょう。真面目に情報開示に取り組む日本企業の積極性が、これからの日本の強みになりうると思います。

GCP(グローバル循環プロトコル Global Circular Protocol)

プラットフォームの役割:社会の行動を変える「イネーブラー」へ

–最後に、サーキュラーエコノミーの推進において、日本の企業やメルカリのようなプラットフォームはどのような役割を果たすべきだとお考えでしょうか?

日本国内でサーキュラーエコノミーを推進するために、企業レベルで以下の「ABCD」の4つの柱について取り組む必要があります。

A:アクション(Action)

1人や1社でできることには限界があるため、複数の企業が連携し、循環の輪を構築していくことが大切です。

B:バイオ(Bio)

枯渇する非再生資源ではなく、自然の資源で再生可能なバイオマス資源の利用を増やしていく動きです。

C:サーキュラー(Circular)

素材の価値を損なわない水平リサイクルや、部品を再利用するリファービッシュやリマニファクチャリングといった新しい形の資源循環に取り組むことです。

D:デジタル(Digital)

デジタル技術を活用して、モノを使わずにサービスを共有したり(シェアリング)、リユースを促進したりする活動です。

日本は技術に強いので、Bのバイオ、Cのサーキュラー、Dのデジタルは比較的得意です。ただ、サーキュラーエコノミーを推進していくには、Aのアクションで、複数の企業や組織が連携し、お互いに協力することもBからDと同様に非常に大切です。

そして、その連携を促すのが、メルカリさんのような「プラットフォーマー」です。プラットフォーマーは、新しい選択肢や可能性を生み出し、社会や人々の行動を促す「イネーブラー(enabler)」としての役割を果たすべきだと考えています。

さらに重要なのは、その活動がどのような効果を生んだかをしっかりと情報発信することです。情報があるからこそ、私たちは次のステップに進むことができます。AIが情報を整理してくれる時代になっても、元となる正確な情報が存在しなければ何も始まりません。だからこそ、プラットフォーマーや国がしっかりと情報を収集し、発信していくことが、サーキュラーエコノミーへの転換を加速させる鍵となるのです。

今回はサーキュラーエコノミー全体の概念についてお話ししましたが、今後はリユースに特化した研究や情報発信も進めていきたいと考えています。メルカリさんといえばリユース。私自身、長年、環境省のリユースの研究会等に携わってきましたので、リユースの大切さや難しさ、そして乗り越えるための方法を、皆さんと一緒に考えていきたいです。

 

(執筆・編集:高橋亮平)

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