
業界連携で推進する「リユース教育」の今〜ブックオフ×メルカリが語るサーキュラーエコノミーの未来〜
2025年8月8日の「リユースの日」に、リユース企業6社合同で大規模なリユース体験イベントが開催されました。メルカリもこのイベントに出展し、業界の垣根を越えてリユースの楽しさや重要性を伝える場となりました。今回は、本イベントを企画したブックオフグループホールディングス株式会社(以下、ブックオフ)の担当者と、同じくリユース教育に取り組むメルカリの担当者にサーキュラーエコノミーの実現に欠かせない『リユース教育』について、業界の垣根を越えて連携するブックオフとメルカリの事例を交えながら、その重要性と今後の展望を深掘りします。
ブックオフグループホールディングス株式会社 グループ戦略企画部 ブランドコミュニケーショングループ 牧田小夏
リユースや循環型社会に関する認識浸透、ブランド価値向上を目的としたコミュニケーションを担当。伝える相手に合わせた様々な施策を用いて、自社が提供する手放し方の選択肢を提案することで、リユースの価値や、日常の無意識な選択が循環型社会実現に繋がる行動だと気づいていただくことを目指した活動を行う。
ブックオフグループホールディングス株式会社 グループ戦略企画部 ブランドコミュニケーショングループ 黒澤和
リユースや循環型社会に関する認識浸透、ブランド価値向上を目的とした学校や自治体をはじめとしたステークホルダーとの関係構築を担当。リユース教育の推進を中心とし、体験型の授業プログラム「学校ブックオフ」の運営、実施をはじめ、リユースの理解を深めるための出張授業や講話、職業体験のイベントも行う。
株式会社メルカリ 経営戦略室 政策企画 齋藤良和
2017年10月よりメルカリに参画。消費者政策・自治体連携・教育啓発施策の企画推進を担当。直近では、サーキュラーエコノミーに関する教材開発や情報発信を担当し、株式会社メルカリが運営する教育ポータルサイト「mercari education」を通じて、学校関係者や保護者向けに各種教材や活用事例の発信を行う。消費者庁「消費者保護のための啓発用デジタル教材開発に向けた有識者会議」委員を務める。一般社団法人セーファーインターネット協会ネットセーフティ・スペシャリスト。
ブックオフが主催した「リユースの日」イベント
–8月8日の「リユースの日」に開催されたイベントは、どのようなものだったのでしょうか。
ブックオフ牧田さん:小学生とその保護者を対象としたリユース体験イベント「8月8日リユースの日〜笑顔をつないで、未来への力に〜」を、環境省の後援のもと秋葉原で2日間にわたり開催しました。2023年に制定されて今年で2年目になる『8月8日リユースの日』をきっかけに、生活者のリユースと循環型社会に関する認識を深め、リユース人口を増やしていこうという目的で実施に至りました。
実は、環境省の調査によると1年間でリユースを経験した人は約30%に留まっています。*1
多くの人にとって、「リサイクル」は分別や収集などを通じて身近な存在になりましたが、「リユース」はまだ特別なものと捉えられがちです。この現状を打破すべく、ブックオフは業界の垣根を越え、メルカリを含む6社に及ぶリユース関連企業と共に、子どもたちが楽しみながら学べる体験型のイベントを企画しました。
当日は2日間で親子合わせて555名の方にご参加いただき、アンケートでは8割以上の方が「このイベントで初めてリユースの日を知った」と回答し、「リユースへの理解が深まった」「夏休みの良い思い出になった」といった声が多数寄せられました。
【イベントレポート】来場者アンケートで、参加した小学生と保護者の約97%が「生活の中でもリユースを実践したい」と回答。SDGs達成・循環型社会実現に向け今日からできるリユースについて
–ブックオフのブースでは、行列ができるほど盛況でしたね。具体的にどのような体験を提供されたのですか。
ブックオフ黒澤さん:今回のイベントでブックオフが提供したのは、店舗の裏側を体験できる「CD・DVDの加工体験」ワークショップです。ブックオフのお店には、買取、加工、補充、販売という4つのお仕事があります。今回はその中の「加工」というお仕事を体験していただきました。買い取ったCDやDVDに傷や汚れがある場合、研磨機という特殊な機械を使って綺麗にクリーニングします。子どもたちには実際に研磨機を使ってもらい、綺麗になった商品を袋詰めして値段をつけるところまでを体験してもらいました。さらに子どもたちが加工してくれた商品は、実際にブックオフ秋葉原駅前店で販売させていただきました。。お店の裏側を知る驚きと、特殊な機械を使う楽しさで、お子さんも親御さんも一緒に楽しんでいただけた様子でした。
–メルカリとしてもブースを出展しましたが、参加の経緯を教えてください。
メルカリ齋藤さん:私たちはフリマアプリ「メルカリ」での売買がリユースの一つであると、もっと多くの方に知っていただきたいと考えていました。今回ブックオフ様からお声がけいただき、個社ではなく業界全体でリユースを盛り上げる絶好の機会だと考え、参加を決めました。ブースでは、「捨てるをへらす」をキーワードにした新コンテンツ「地球を救え!リユース探検隊」というワークショップを初披露しました。新しいコンテンツではあえてメルカリ色を抑え、メルカリを使っていない方にも楽しんでいただきながら、リユースを含む3Rについて学んでもらうことを意識しました。物理的なモノを扱うワークショップが多い中で、私たちのようなオンラインサービスがどういった体験を提供できるか、少しドキドキしながらの参加でしたが、子どもたちにはとても楽しんでもらえたようで、手応えを感じています。
未来を担う世代に「リユース教育」が重要な理由
–ブックオフがリユース教育に力を入れている背景や想いについて教えてください。
ブックオフ黒澤さん:私たちは2021年から「学校ブックオフ」という体験型の授業プログラムを全国の小中学生にオンラインで提供しており、これまでに累計12,000人以上の子どもたちが受講してくれました。
プログラムは、各学年やテーマごとに選べる3つの体験から構成されています。
・不要なTシャツで「マイバックを作ろう」
→不要なTシャツからマイバッグを作り、モノを大切にするという体験を通して日常の生活を振り返り、自分たちが学校で取り組めるリユースアクションを考えます
・査定体験「本の価値って、どのくらい?」
→身近な存在である「本」を題材に、本の査定体験を通して、モノを大切に扱うことやモノの寿命を延ばすことについて考えます
・店舗体験「学校にブックオフをつくろう!」
→ブックオフの取り組みを知り、店舗運営や循環型社会について理解を深めます
3R(リデュース、リユース、リサイクル)の中でも、リユースは製品の形を変えずにそのまま繰り返し使うため、資源に戻すプロセスが必要なリサイクルに比べて環境負荷が少なく、誰でも手軽にできるのが最大の良さです。しかし、子どもたちの中ではリユースとリサイクルの区別が曖昧なことも少なくありません。「学校ブックオフ」のプログラムを通じて、子どもたちに「使えるものは手放さず、次の人につなぐ」という選択肢を自然に持ってもらいたいと考えています。リユースが特別なことではなく、もっと自然に生活の中に溶け込んでる未来が実現できたら素敵だなと思っています。
リユース教育を通じて、「使えるものは捨てずに、次の誰かにつなぐ」という選択肢が当たり前になる社会を、子どもたちと一緒に創っていきたいと考えています。
リユース教育を社会に広めるための課題と業界連携の重要性
–リユース教育を社会に広げていく上での難しさはどのようなところにありますか
ブックオフ黒澤さん:やはり、リサイクルに比べてリユースの認知度がまだ低い点が課題です。また、学校でプログラムを導入していただいても、先生が異動されるタイミングで取り組みが途切れてしまうなど、継続性の難しさも感じています。そこで最近では、個別の学校へのアプローチだけでなく、自治体と包括連携協定を結び、リユース教育を組み込むことで、地域全体で継続的にリユース教育を広げていく取り組みに力を入れています。
BOOKOFF GROUP HOLDINGS 地域社会、行政、パートナーとの連携
メルカリ齋藤さん:黒澤さんのお話は非常に共感します。企業の教育プログラムは、どうしても「自社サービスの宣伝ではないか」と見られてしまうジレンマがあり、教育現場が二の足を踏んでしまうことがあります。担当者の方の熱意だけでは乗り越えられない壁があるのが実情です。そのため、私たちも、自治体と連携することの重要性を痛感しています。メルカリでは、先生方が自由にアレンジして使えるように教材をオープン化することで、教育現場で活用していただきやすい形を目指しています。
個社で動くのではなく、リユースに関わる様々な事業者や団体、そして行政が連携し、全体で協働していくことが非常に大事だと思います。個社で挑むと「宣伝」と見なされかねない活動も、業界全体で「リユースの普及」という目的を掲げれば、その純粋な意図が伝わりやすくなります。今回ブックオフが主催した「リユースの日」のイベントは、まさにその成功事例といえます。
リユース教育を社会に当たり前に根付かせるためには、業界の垣根を越えた連携が不可欠です。この領域においては、連携こそが最大の推進力となります。
私たちもブックオフのようなパートナーの皆さんと連携し、知見を共有しながらリユース教育を推進していきます。
日本のサーキュラーエコノミー実現に向けて:リユース事業者が果たすべき役割
–メルカリとして、業界全体で今後どのような連携ができるとお考えですか。
メルカリ齋藤さん:同じリユースのサービスを提供する企業でも、ブックオフ様の強みはオフラインであり、メルカリはオンラインが主戦場だったりと異なります。メルカリはアプリを使ったオンラインが中心なので、対面で何かを伝える機会が限られます。全国に店舗を持つブックオフ様と連携させていただくことで、オフラインでのリユース促進や啓発の可能性がすごく広がるのではないかと感じています。
今回のリユースの日のイベントは、それぞれ異なる領域での強みをもつパートナー同士が連携することで、リユース啓発の可能性を大きく広げられた素晴らしい取り組み事例でした。リユース全体の裾野を広げていくためには、今後も業界が一体となって協働していくことが不可欠です。イベントでの連携はもちろん、担当者レベルでの情報交換や、お互いの教育プログラムへのフィードバックなど、様々な形で連携を深め、共に「捨てるをへらす社会」を実現していけたら嬉しいです。
–最後に、ブックオフがサーキュラーエコノミーの推進において果たしていく役割について、今後の展望をお伺いできますでしょうか。
ブックオフ牧田さん:「多くの人に楽しく豊かな生活を提供する」というミッションのもと、”手放し方の選択肢を広げる” ことが自社の役割だと考えています。
ブックオフの店舗やネットサービスはもちろん、国内で販売機会に恵まれなかった品物を海外でリユースする『Jalan Jalan Japan』事業や、店舗に持ち込む手間なく生活の身近な場所でリユース品を回収する『R-LOOP』など、あらゆる生活者の身近な場所で手放す選択肢を広げていくことを目指しています。こうした事業活動と教育活動の両輪でリユースを当たり前にし、最終的にはサーキュラーエコノミーの実現に貢献していきたいです。
また、取り組みは継続していくことが大切です。 今回のリユースの日のイベントは東京開催でしたが、来年以降は開催地域や規模を拡大して取り組んでいきたいと考えていますので、ぜひ楽しみにしていてください。
(執筆:小林駿斗、編集:上村一斗)