
ヤクルトレディが繋ぐサーキュラーエコノミー 〜ヤクルト山陽の地域に根差したリユース事業〜
2024年6月より開始した株式会社ヤクルト山陽(以下「ヤクルト山陽」)、広島県安芸高田市(以下「安芸高田市」)、広島県三次市(以下「三次市」)、そしてメルカリによるリユース推進の取り組みは2025年3月を持って実証実験を終え、4月より本格的に運用をすべく取り組みの継続が決まりました。数々のアワードを受賞するなど、ヤクルト山陽の取り組みは、地域循環をテーマにしたサーキュラーエコノミーの事例として今後の発展が期待されています。今回は本取り組みをリードしているサステナ推進担当の長田さん、天野さんへインタビューを実施しました。リユースに取り組む事業者さま必見の記事になっています。
メルカリ、ヤクルト山陽および広島県安芸高田市・三次市と連携して”まだ使える”不要品を回収し、「メルカリShops」で販売するリユース推進の実証実験を開始
ヤクルト山陽 サステナ推進部 課長 長田宗一郎(写真左)
2014年にヤクルト本社入社し、化粧品部・宅配営業部を経験。2022年ヤクルト山陽で新規事業を推進するサステナ推進部に配属。現在は、メルカリ社さまとの協業では、メルカリ教室やメルカリステーションを経験後、メルカリ、ヤクルト山陽および広島県安芸高田市・三次市とのリユース推進の実証実験において自治体との連携を主導。
ヤクルト山陽 サステナ推進部 リユースチーム 主任 天野貴美子(写真右)
2010年10月より4年半ヤクルトレディを経験後、2015年にヤクルト山陽に入社。宅配営業部を9年経験した後、2024年4月よりサステナ推進部へ異動。メルカリ教室講師を資格を取得後、出張メルカリ教室を中心に地域住民へのリユース啓発を実施。リユース推進の実証実験ではヤクルト山陽のメルカリShopsアカウントにて、安芸高田市・三次市・ヤクルト山陽備品の出品作業を担当。
メルカリ教室からリユースへ、事業領域拡大の背景
–自治体やメルカリと連携して実施したリユースの実証実験がどのようなものか、背景含めてご説明ください。
ヤクルト山陽は、飲料事業に加えて新たな事業領域の拡大に挑戦しています。これは、ヤクルトの企業理念である「お客様の楽しい生活づくりに貢献する」という観点から、お客様の抱える「お困り事」を解決するための新しい取り組みとして始まりました。特に、ヤクルトレディがお客様宅を訪問する中で、リユースに対する高い需要と可能性を感じたことが、この事業の着想点となりました。
この取り組みの背景には、株式会社メルカリとの連携があります。ヤクルト山陽はこれまでも地域住民向けに「メルカリ教室」を開催し、メルカリの利用方法をサポートしてきました。この教室は年間約1000名が参加するほど好評でしたが、一方で「スマートフォンの使い方がわからない」「そもそもスマートフォンを持っていない」といった理由でリユースに関心があっても実践できないお客様が存在するという課題も浮き彫りになりました。この状況を受け、「自分でできる方にはメルカリ教室の参加を通じたサポートを実施し、できない方には何か別の方法で」という考えから、地域での不要品回収・販売の実証実験へと発展しました。
実証実験は、地域の住民の皆様と自治体と連携して実施しました。具体的には、広島県の安芸高田市と三次市それぞれとヤクルト山陽が包括連携協定を結び、まだ使える不要品を回収し、メルカリショップスで販売するというものです。自治体側も環境問題を重視しながらも、単独では人手不足や処分方法の課題を抱えており、ヤクルト山陽がメルカリと連携して出品を担うことは、自治体にとっても非常に喜ばれる協力となりました。この取り組みは、ヤクルト山陽にとってもまさに新しい、これまで経験したことのないチャレンジでした。
ヤクルトレディが繋ぐ、地域住民との信頼関係
–ヤクルトレディさんが訪問して回収してくれるというのは、ヤクルトさまならではのユニークな取り組みですよね。
ヤクルト山陽が地域のリユースを推進する上で、特にユニークかつ効果的だったのが、ヤクルトレディを通じた不要品の回収です。回収方法は大きく分けて3つあります。一つは地域住民がヤクルトセンターや営業所に直接不要品を持ち込む方法。もう一つは、ヤクルトレディが自宅訪問の際に不要品を回収する方法です。これは、足が悪く外出が難しいなど、センターに直接持ち込めない住民にとって大変助かるサービスとなっています。そして三つ目は、自治体との連携です。例えば、廃校になった小学校の備品やオフィスリニューアルで不要になった備品など、自治体が処分に困っていたものをヤクルト山陽が回収し、メルカリで出品しました。特に、ヤクルトレディが自宅に訪問して回収するという方法は、住民がメルカリを自分で使えなくても不要品を捨てずに済むため、安心感があり、負担も軽減され、同時に地域貢献にも繋がるという、まさに「良いことづくめ」の取り組みとなっています。
この取り組みをヤクルトレディが担うことについては、当初「インセンティブがないと難しいのでは」という懸念の声もありました。しかし、現場のヤクルトレディや営業センターのマネージャーからは、住民から「家に不要なものがあり困っているから、どうにかしてほしい」「持って帰ってほしい」といったリユースへの強い需要があることが伝えられました。その結果、この取り組みの話が持ち上がった際には、ヤクルトレディたちは非常に前向きに捉え、実際に活動を開始すると、想定以上の不要品が集まることに驚き、その社会的な意義を改めて実感したとのことです。
回収されたモノから見える意外な需要とサーキュラーエコノミーの効果
–実際にどのようなものが回収、出品され、売れていますか。これまでの実績を交えて教えてください。
実際のリユース実証実験では、多種多様な不要品が回収され、出品・販売されています。具体的には、衣類が最も多く回収され、特に昔の家で多く所有されていた「大きなもの」や、かつて大家族で食事をするために揃えられていた「食器類」なども多数集まりました。その他にも、使えなくなったパソコン、電化製品、アクセサリー、鍋など、衣類から電化製品まで非常に幅広い品目が回収されていることが明らかになりました。これらの回収品の中で特に人気があり、よく購入されているのは、食器類と衣類です。また、ジャンク品(部品取り用)のパソコンなども、必要とする人がいるため販売につながっています。このことから、地域には幅広い不要品に対する需要が確かに存在することが伺えます。
この実証実験の成果は、定量的にも明確に示されています。期間中(2024年6月1日から2025年3月31日まで)に約1164点の不要品が回収され、そのうち512点が販売されました。これにより、本来であれば廃棄されるはずだったゴミの量が約1トン近く削減されたと推定されています。これは広島市の一人当たりのゴミ排出量の約3年分に相当する量であり、環境負荷の低減に大きく貢献していることがわかります。
さらに、経済的な効果も算出しています。リユース品販売による単純な利益だけでなく、自治体のゴミ処理費削減分を含めると、約100万円近くの経済効果があったと試算されています。また、メルカリ教室を開催することで得られるインセンティブ収入や、この取り組みをきっかけとしたヤクルト製品・化粧品の新規顧客獲得、さらには会社への訪問依頼など、ヤクルト山陽にとっても新しいお客様の獲得に継続的につながっているというメリットも合わせると、約300万円以上の経済効果があったと試算しています。これは、今回の取り組みが単なるCSR活動的な「環境に良いこと」だけでなく、持続可能なビジネスモデルとしても成立し得る可能性を示しています。もちろん、まだ開始して9ヶ月しか経過していませんので、取り組みを継続していくことでその効果についてはモニタリングしていく必要があります。
「自分でできる喜び」と「誰かの手に渡る喜び」
–実際にリユースの取り組みに参加された方々からはどのような声が届いていますか。
リユースの取り組みに参加した方々からは、温かい声が多数届いています。メルカリ教室に参加した高齢者の方々からは、「自分で(メルカリの操作が)できるようになってよかった」「ヤクルトさんのおかげで(自分の不要品が)誰かの手に渡るんだね」という喜びの声が聞かれました。これは、単に不要品を処理するだけでなく、それが再び価値を持つことへの喜びを感じていることを示しています。
さらに、ヤクルト社内の従業員の意識にも変化が見られました。ヤクルト山陽社内の備品についても、「捨てる」のではなく「これ出せるの?」とリユースの可能性を探るようになり、実際に販売できると「こんなものも売れるんだ」と驚きや新たな発見につながっています。
また、連携している自治体である安芸高田市と三好市からも、この取り組みに対する高い評価が寄せられています。両自治体からは、「環境問題になかなか着手できていなかったが、この取り組みを通して住民の意識も大きく変わった」「今後もぜひ継続していきたい」という声が届いており、地域全体での環境意識向上にも貢献していることが伺えます。
今回の取り組みが評価され、環境省、経産省、経団連が推進する「循環経済パートナーシップ(J4CE)」の注目事例集にも掲載いただきました。さらに今年は「全国シェアリングシティ大賞」で優秀賞を受賞しました。当時東京大学で研究員をされていたmoon先生にも協力いただき、環境負荷削減効果などの定量的な評価を行ったことも、このような評価に繋がった要因の一つだと考えています。
このように、本プロジェクトは関わる全ての人々がメリットを享受できる、地域におけるサーキュラーエコノミーの実現に向けた意義深い取り組みとして認識されています。
地域特性に合わせたリユースの仕組みづくり「都市型モデル」への挑戦
–本格運用フェーズへ移行するとのことですが、現状の課題と今後の展望について教えてください。
今年の3月末を持って、約9ヶ月間の実証実験期間を終え、ヤクルト山陽の地域リユース推進は本格的な運用フェーズへと移行しました。もちろんいいことばかりではなく、いくつかの課題も認識しています。まだ始まったばかりの取り組みであるため、オペレーション面での改善が必要であり、いかに効率的に回収・販売を行うかが今後の課題として挙げられています。さらに重要な課題として、地域によって人口密度や住民の暮らし方、自治体の取り組みなど特性が異なるため、今回うまくいったモデルを他の地域にそのまま横展開することは容易ではないという認識があります。そのため、他の地域に広げる際には、その地域の特性に合わせた仕組みづくりが不可欠であると感じています。
今後の展望としては、まず安芸高田市と三好市での取り組みを継続し、さらなる効率化と最適化を進めていく方針です。ヤクルト山陽は広島と山口を管轄する販売会社であるため、今後は広島市のような都市部でのリユースモデルの検討も進めていく計画です。都市部での取り組みは、また異なる課題や特性があることが予想されますが、さらに良い方法や新たな連携の可能性を継続して模索していきます。
(執筆・編集:上村 一斗)